バレエピアニストとは

バレエレッスンにおける

バレエピアニスト 


 

バレエピアニストとしての仕事の一つは、

バレエレッスンの中でそれぞれの動きに対してふさわしい音楽を提供し、バレリーナたちの動きを音楽によって支え、共に芸術的な時間を作っていくことです。

 

世界中にバレエ学校やバレエ教室がありますが、バレエレッスンはどこでも通常90分で行われ、大きな流れも大体共通しています。バレリーナにとってバレエレッスンは、その日の自分自身の体調やコンディションを確認し整えていく大切な時間で、ほぼ毎日行われます。

 

日々のリハーサルや本番が続くバレリーナたちは、常に万全な状態でバレエレッスンに足を運んでいるとは限りません。

とても疲れていたり、うまくいかないことがあり悩んでいたり、怪我をしていて痛みを抱えながら踊っている場合もあります。

そのような中でも、バレリーナたちにエネルギーを与え、踊ることが楽しいと思わせる効果があるものの一つが音楽です。

 

 

バレリーナはもともと音楽に合わせて踊ることが好きな方々なので、音楽はバレリーナたちにとってとても重要です。音楽によって、このバレエレッスンで活力を得てバレリーナとしての技術を磨き上げていけるのです。

 

バレエレッスンにおけるピアニストとして必要なことは、

バレリーナの動きを見てその瞬間その瞬間で動きに合った音楽を演奏することです。

先に書いたように、大体のバレエレッスンの流れはどこも同じですが、細かい動きは毎日違い、指導されるバレエの先生によっても変わります。

バレエピアニストがレッスン前に曲を全て用意してバレエレッスンに挑んだとしても、その準備した曲がその日のバレエレッスンの動きに全て合うことはほぼありません。

 

楽譜を見ながら弾くと、どうしても音楽的な流れが滞ってしまったり自然な演奏に聞こえなくなることがあるので、バレリーナも心地よさが感じられず踊りづらく感じたりします。音楽だけで聴けば偉大な作曲家の素晴らしい曲だとしても、バレエレッスンの中でダンサーたちが踊りづらさを感じれば、バレエの先生は『その曲はなんだか合わないから違う曲にしてください。』と言うと思います。

こういった問題点については後の【バレエレッスン中によく起こる問題点】で書きます。

 

なのでバレエピアニストは、バレリーナたちが聴きやすく美しい旋律を用いてアレンジしたり、既存曲の素敵な和音を取り入れて即興しながら、バレエのその時の動きにあった音楽を演奏していくことが理想的です。

 

そのために、バレリーナやバレエの先生たちと円滑なコミュニケーションを取り臨機応変に対応できる能力が必要となります。


バレエレッスン中に起こる

問題点

 


 バレエピアニストとしての経験が長かったとしても、

初めて会うバレエの先生のクラスで弾く時は少し緊張します。

それは、例え同じ動きであっても、

それぞれの先生によって欲している音楽が違うことがあるからです。

 

 

どのような動きにどのような音楽が合う、というような基本的なスタイルはだいたい共通していますが、クラスの先生によってテンポや音の強さ、好みの曲想は違います。

 

 

そのため、バレエピアニストが弾きだした曲がバレエの先生のイメージしていた音楽と違い『ちょっと待って。』とレッスンが一度ストップする可能性は十分あるのです。そのような時、バレエの先生が適確にどのような音楽が欲しいのかピアニストに提案し、ピアニストも動きや先生の言葉から意図を掴み、ふさわしい音楽を弾き直せれば問題ありません。

 

しかし、バレエの先生とピアニストとの間で意思疎通ができず、バレエの動きや先生のイメージに合う曲をピアニストが弾けないままレッスンが何分も中断し続けたり、仕方なく合わない音楽のままレッスンが進行し続けると問題です。

 

こういう状況が起きてしまうのはもしかすると、バレエの先生がピアニストに適確にどのような音楽が欲しいのか伝えられていないのかもしれないし、バレエピアニストとしての経験が浅くバレエの動きに合う音楽が思いつかなかったり、バレエの先生の音楽のイメージが正確に理解できないことが原因かもしれません。

 

時々、バレリーナ(バレエの先生)とバレエピアニストとの間に音楽に対しての共通の言語が無いように感じることがあります。

つまりバレエの先生が、音楽家が分かる用語を使って拍子や曲想やテンポを表現してくれたら、ピアニストは何の問題も無くふさわしい音楽を思いつき弾くことができるのですが、音楽家の視点から曲の提案ができるバレエの先生やバレリーナはごくわずかです。

 

私がバレエピアニストを始めたばかりの頃、このようなことがありました。

 

Plieでpreparationを弾きメローディーに入ったのですが、バレエの先生がすぐに止めて

『preparationの後メロディーに入る時がよく分からないからはっきり弾いてください。』

と言いました。

この時はレッスンが一時中断し、何度やってもバレエの先生は

『それでは分からないから入れないの。preparationからメローディに入るときに合図のようなものが欲しい。』

というばかりで、先生が何を欲しているのか私はよく分かりませんでした。

数回やり直して最後に先生が

 

『それ!今ので大丈夫!』

と言い、正解が分かりました。

 

その先生のおっしゃっていた【合図のようなもの】とは音楽家が使う用語だと【アウフタクト】だったのです。

『メロディに入る前にアウフタクトをつけて。』と言ってくれたらすぐに理解できたのに...という1例です。

 

他にも、

『4分の2拍子の音楽を弾いてください。』

と言われたので弾いたのですが、バレエの先生は『なんだか違う...。』と。

するとその先生が欲している曲を歌ってくださったのですが、それは4分の2拍子ではなく8分の6拍子の音楽でした。

確かに音楽のことを良く知っている人でなければ、4分の2拍子と8分の6拍子の違いを区別は難しいのかもしれません。

 

さらに私の先輩バレエピアニストの話にも似たようなものがありました。

例えば、一言に3拍子の曲といってもマズルカやポロネーズ、ワルツなど様々な曲想がありますが、それぞれのスタイルの違いをしっかりと理解してピアニストに提案できるバレエの先生は少ないです。

 

その先輩バレエピアニストはあるバレエの先生に

『マズルカのような感じの、壮大な3拍子を弾いてください。』

と言われました。

しかし、そもそも音楽家にとってのマズルカとは壮大な曲ではなく、テンポも軽やかです。

とりあえずそのピアニストはマズルカを弾いたのですが、バレエの先生は

『もっと重い感じで、もっと遅く。』

と言い、その後も

『もっともっと遅いテンポで...。』

というやり取りが続いた末、行きついた音楽は音楽家が知っているマズルカの音楽ではなくなっていました。

そのバレエの先生が欲していた【マズルカのような感じの壮大な3拍子】というのは、つまりポロネーズを表していたのです。

 

バレエの先生が、どのような音楽をバレエピアニストに弾いてほしいのかを伝えるとき、先生によって表現は様々で、音楽家に分かりやすい言葉で伝えることが難しい場面が多々あります。

そのような時に、先に書いたように『バレリーナ(バレエの先生)とバレエピアニストとの間に音楽に対しての共通の言語が無い』と感じるのです。

それでも数回同じ先生とレッスンを共にするうちに、この先生がこう言うときは、こういう音楽が欲しいのだろうな、と読み取れてきます。

バレエピアニストからふさわしい音楽が返ってこなかったときに、歌を歌って曲想やリズムを示してくださるバレエの先生もいます。

そのような時は、だいたいその歌に似たようなメロディーとリズムを用いて弾くと良いです。

 

バレエの先生も、どのような音楽が必要なのか一生懸命にバレエピアニストに伝えようと試みているので、ピアニスト側も少しでも多くの経験を重ねて先生の思いを汲み取ることができるようになりたいものです。

 

そして必要なことは、

バレエピアニストも常にバレエに関心を持ち、様々なバレエを鑑賞したりバレエ音楽に耳を傾けることだと思います。

 

バレエレッスンで先生が曲想を伝える時に、既存のバレエ音楽を例に挙げることも多いです。

例えば、『コーダのような音楽』や『アダージョのような音楽』、

またはもっと限定的に『シルヴィアのピツィカートのような音楽』という風に言われることがあります。

この時、もう既にピアニスト側がその曲を知っていてそのまま弾ければ素晴らしいのですが、必ずしも知っているとは限りません。

そのような時には、コーダとはだいたいどのような曲想、バレエのアダージョとはどのような音楽、シルヴィアのピツィカートはどのような曲だったか...曲の雰囲気をだいたい知っていることが大切です。

そして完璧に弾けなくても良いので、なんとなく似ている曲想で似たリズムやメロディを弾ければ、バレエレッスンでは機能します。

(もちろん、リハーサルなど既存曲を完全な形で弾かなければいけない場合は、なんとなく似た曲ではなく、しっかりと楽譜を用意して楽譜通りに弾かなければいけません。)

 

このように、様々な種類の音楽のスタイルを知り弾けるようにしておくと、バレエピアニストとして様々な場面に対応できると思います。

 

 

 

 


リハーサルにおける

バレエピアニスト


バレエの舞台公演やコンクールでは、本番はオーケストラ演奏やCDの音で踊る事ことが多いです。

しかし、リハーサル段階ではピアニストの演奏と共に練習していくことが多いです。

即興演奏が多く必要になるバレエレッスンとは違い、リハーサルの時はそれぞれの演目の楽譜を見てその楽譜通りに弾くことになります。

 

 

リハーサル前には必ず原曲をよく聴いておき、その演目について知っておくことが大切です。

しっかりと音が書かれていない楽譜や簡略化されすぎている楽譜もあるので、原曲のオーケストラがどのように演奏しているのかを自分の耳で確かめ、それにできるだけ似た音作りをする必要があります。音を足した方が良い場合は、技術的に可能であれば音を弾き足します。

 

 

気を付けなければいけないことは、同じ曲であってもそれぞれの振付によって、楽曲が一部カットされている場合もあることです。

どの振付で踊るのか、もし可能な場合はそのバレエ団やスタジオで実際に踊られている映像を見て、それと同じになるように曲のカット部分を把握しておかなければいけません。

また、振付の都合で楽譜には書かれていないテンポ変更やritardandoが生じることも良くあるので確認しておきましょう。

 

 

必要な曲とどの振付で踊るのかということ分かった上で、映像を見る時に、曲のどの部分でどのような振付が付けられているのかということにも注意しながら見ます。

音楽のフレーズごとに振付をメモしたり、目印になるような動きがあればそれぞれ楽譜に書き込んでいきます。

 

例えば、とあるヴァリエーションをリハーサルする時は、最初から最後まで通さずに、細かく区切って練習していくことが多いです。

曲の途中から練習することも多く、たいていの場合バレエダンサーやバレエの先生は、練習したい部分を動きの名前(バレエ用語)を使って

『〇〇のところから弾いてください。』

とピアニストにお願いすることが多いです。

音を歌って場所を教えてくれたら、ピアニストにもその練習箇所が伝わりやすいのですが、そうではないことが多いのです。

そのため、リハーサルピアニストはリハーサル前に動画を見て、曲のそれぞれの部分でダンサーは何をしているのか把握してしておく必要があるのです。

もし動きのバレエ用語が分からなければ、自分の分かる言葉で楽譜に動きを書いておいたり、動きを表す絵を描いておくだけでも、十分に自分の助けになります。

 

バレエ用語だけで理解できるようになるにはかなり経験を積まなければいけません。

そのような知識はバレエダンサーと共にピアニストも普段のバレエレッスンで覚えていきます。

リハーサルを円滑に進めるためには、リハーサルだけではなく日ごろのバレエレッスンで弾くという経験の積み重ねが大きく役に立つと思います。

https://www.ballet-pianist.com/ 

Mail marty.piano.school@gmail.com


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